ジェントルかっぱのブログ

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【映画】『フラッシュダンス』 エイドリアン・ライン Flashdance (1983)

ブルース・リーの『燃えよドラゴン』を観たあとは叫んだり闘ったりヌンチャクを振り回したくなる。『フラッシュダンス』を観たあとは体を揺すったりポーズを決めたり踊ったりしたくなる。これは身体に働きかける映画なのである。

ストーリーは単純で、時々衝動的に暴力を振るうボーダーライン気味の下層階級の女の子が、金持ちで社会的地位が高い恋人のコネを使って底辺から這い上がるチャンスを得る、という話である。よく似たモチーフの話にリチャード・ギアジュリア・ロバーツの『プリティ・ウーマン』があるが、両者とも、白馬にまたがった王子様が苦しい自分の境遇から救い出してくれるという女性の願望充足がテーマの、少女漫画的作品であるといえる。

下層階級が主人公で踊りが素敵な映画といえば『ウェストサイド・ストーリー』だが、あの映画と違うところは登場人物は踊るだけで歌わず、その替わりにダンサーのプロポーションや筋肉、性的魅力といった身体面が強調されるというところであろうか。

燃えよドラゴン』はブルース・リーの肉体と動作と圧倒的な強さが血湧き肉躍るものだったが、『フッシュダンス』は吹き替えダンサーやストリートダンサーの、アーティスティックでキレのあるカッコイイダンスが、鑑賞者に爽快感を与えるものになっている。

ビョークの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は暗闇の中から出ることなく地獄の底に沈んでいくダンス・ミュージカル映画だったが、『フラッシュダンス』は天国から垂れてきた蜘蛛の糸が煉獄での生活から脱出する機会をもたらしてくれる、希望のある映画であった。

「結果は実力でつかむもの、だが機会は平等に与えられるべきもの」という理念が理想通りに実現する、観ていて安心できる映画である。