ジェントルかっぱのブログ

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【映画】『白夜』 ルキーノ・ヴィスコンティ 1957年

Wikipediaにある「ナポリタン」という記事によると、ナポリタンスパゲティはイタリアのナポリで食べられているパスタとは何の関係もないそうだ。ナポリタンに限らず、焼き餃子やカレーライスの様に外国の料理が他国に渡って全く異なる味付けになるというのはよくある話であるが、これは文学や映画の世界でもよく起こる。

ヴェニスに死す』のヴィスコンティが監督した映画『白夜』の原作はドストエフスキーである。でもこの映画は、ナポリタンスパゲティがイタリアのものではなく和風の料理であるのと同じで、全くドストエフスキー的ではなく、いかにもイタリア風に味付けされた作品である。

主人公のマリオは設定では孤独な青年らしいのだが、イケメンで女性からはモテモテだし、意中の女性に果敢にアタックする極めて積極的な肉食系青年である。もういかにもイタリア人らしい情熱っぷりである。こんな主人公に、ドストエフスキーの登場人物らしさは見受けられない。

ストーリーは決して明るいものではないはずなのだが、観終わったあとに全てをやりきった爽やかさが漂うのはいかがなものか。爽やかさにドストエフスキーは似合わない。強いて言えば、『罪と罰』などは爽やかな終わり方といえるかも知れないが、ラスコーリニコフはかなり屈折した青年であって、この映画の主人公のように「女性を情熱的に求めて愛して一直線」という感じではない。

男はつらいよ』の次にこの映画を観ると、あまりのギャップにクラクラする。寅さんはこういう映画を見て、女性に対する情熱的なアタックの仕方を勉強すれば、48回もフラれることなく一度くらいは成功したのではないだろうか。

とは言ってもこの映画には面白い見どころが沢山ある。

イタリアの港町のセット、主人公が住んでいる寮の様子、口は悪くて機関銃のように喋るが面倒見の良いおばさん、ヒロインであるナタリアの、まるで風の谷のナウシカに出てくる大ばば様のような祖母、登場人物達のビシっときめたかっこいいファッション、情熱的で激しいダンスシーン、二人の顔が超ドアップで映る、昔の欧米映画らしいラブシーンのカメラワーク、初対面からメッチャ距離が近い男女関係、喜怒哀楽が激しく泣いたり笑ったり忙しい、情緒不安定で面倒くさそうな、だがアイドルのような笑顔でとても愛くるしい美人のヒロイン・・・映画の楽しみが沢山詰まっている。

この映画もまた1950年代、パワフルな作品が沢山作られた黄金時代の作品である。昔の白黒映画を発掘して鑑賞する楽しみを十分味あわせてくれるイタリア映画である。