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ジェントルかっぱのブログ

読書、映画、美術鑑賞

【美術鑑賞】『ミュシャ展』国立新美術館

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私がミュシャの存在を知ったのは、書店で本を買ったときにもらった栞に、『四つの時の流れ』『四つの花』が使用されていたのを目にした時だ。これらの連作は栞にするのにちょうどよい縦横比率になっている。

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そのときに抱いたのは、「ちょっとゴツい体形のおしゃれな美人画を描く人」という感想で、竹久夢二中原淳一と同類のイラストレーターだろうくらいに思っていた。

今回の展覧会は、そういう理解がとても浅いものであったということを教えられて、とても勉強になるものであった。

ミュシャは1860年(万延元年)生まれ、竹久夢二は1884年(明治17年)生まれ、中原淳一は1913年(大正2年)生まれである。今から思うと、竹久夢二中原淳一の方がミュシャの影響を受けていると考えた方がよかったのだ。ミュシャが生まれた1860年は、勝海舟福沢諭吉ジョン万次郎らが咸臨丸に乗ってアメリカへ向けて太平洋を横断した年である。

展覧会の受付から内部に入ると、『スラヴ叙事詩』の連作に包囲される。この連作はそれぞれの絵の巨大さが圧倒的な迫力を与える。描かれている人物は等身大である。かつてルーブル美術館に行った時、ダヴィッドの『ナポレオンの戴冠式』が想像以上に巨大で迫力があった(6.21m×9.79 m)。パンフレットの表紙にもなっている『原故郷のスラヴ民族』は6.1m×8.1mである。 f:id:ponshan:20170325121355p:plain

それぞれの絵は印象派のように光や空気を感じさせるものになっている。構図はかなり凝ったもので、テーマになる人物(皇帝、王、フスなど)は大きく描かれず遠くに描かれ、浮世絵の富士山のような扱いである。遠近法は西洋絵画の透視図法や、水墨画の空気遠近法を両方取り入れている。『ロシアの農奴制廃止』では空気遠近法がモスクワの寒くて冷たい空気や開放された人々の不安心理を多重に表現する効果をもたらしていて、とても印象に残るものだった。 

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また彫刻作品『ラ・ナチュール』は細身で鼻筋が通っていて顎が小さい女性像で、現代のファッションモデルやマネキン人形の様である。モデルはサラ・ベルナールクレオ・ド・メロードらしいが、さらに細い。やせ細った女性を美人とする価値観は、この頃から台頭しつつあったのであろうか。f:id:ponshan:20170325121518j:plain

奇妙な感想だが、ミュシャの作品を観ていると、「この人は絵がうまいなー」としきりに思うのだ。画家が絵がうまいのはあたりまえなのだが、ミュシャの場合技巧の卓越さがどうしても目につくのである。これは伊藤若冲葛飾北斎大友克洋のような人たちと似た系譜を感じる。技巧に加えてフェティッシュなこだわりもある。ミュシャミケランジェロロダンのように筋肉が好きである。特に痩せた筋肉が。

ミュシャという人は、幕末に生まれ、印象派、浮世絵、水墨画の様式を、圧倒的なデッサン力、画力で統合し、さまざまな技法を自在にあやつり、第一次大戦後の民族自決主義に影響された政治的テーマの大作を20年かけて描き続け、チェコに侵攻したナチス・ドイツに逮捕されて釈放後に死亡した、硬派の芸術家であった。