ジェントルかっぱのブログ

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【映画】『赤ひげ』黒澤明/三船敏郎/加山雄三 1965年 東宝

昭和後期の1970年代、テレビではゴールデンタイムに必ず時代劇をやっていた。その中でも松下幸之助のナショナルがスポンサーをしていたものは『水戸黄門』が有名だが、他にも著名なものとして『大岡越前』がある。真面目なインテリ風の加藤剛南町奉行大岡忠相の役をしていたのだが、加藤の親友役でレギュラー出演していたのが、竹脇無我演ずる榊原伊織である。榊原伊織はおそらく架空の人物であるが、小石川養生所の医師として大岡忠相の相談にのったりアドバイスをしたりする立ち位置であった。時代設定は享保年間であり、徳川吉宗山口崇が演じていた。

八代将軍徳川吉宗が将軍に就任したのが1716年、大岡忠相南町奉行に就任したのはその翌年の1717年、今年は大岡忠相南町奉行に就任してから300年の節目の年なのである。

吉宗が行った政策の中で有名なものに「目安箱」があるが、この目安箱に貧民用の無料病院を作るように投書したのが町医者の小川笙船であり、彼が「赤ひげ」のモデルなのである。小川の投書を受けた吉宗は大川に検討を命じ、そして建設されたのが小石川養生所であった。

1716年(享保元年) 徳川吉宗 第八代将軍に就任

1717年(亨保2年) 大岡忠相 江戸町奉行に就任

1721年(亨保6年) 徳川吉宗 目安箱を設置

1722年(享保7年) 小石川養生所開設

映画は1965年と比較的新しいながら白黒の作品である。

中心の役者は三船敏郎加山雄三だが、この組み合わせは『椿三十郎』と同じである。役どころも、主人公の赤ひげは乱暴な口調、ぶっきら棒な態度、やたら喧嘩に強いなど、椿三十郎とかぶるところがある。加山雄三も、良いところのお坊ちゃんで秀才で真面目で、最初は反発しているが、次第に三船敏郎に私淑して行って師と仰ぐようになるところなど、共通点が多い。

他の役者で存在感があるのは娼家の女主人役の杉村春子である。この人は「日本の口やかましいおばちゃん」をやらせたら右に出るものがいない。また杉村春子にいじめられていたが養生所に保護される少女のおとよ役の二木てるみも素晴らしい。その他チョイ役として志村喬笠智衆、エピソード内主役として山崎努、脇役として東野英治郎と、小津俳優と黒澤俳優が多数出演している。

3時間の大作で、途中で休憩タイムが入る構成になっている。休憩の前半と後半では作品の雰囲気が変わるのだが、これは前半を山本周五郎原作により、後半をドストエフスキー原作によったためだろうか。前半の狂女のエピソードは、漱石夢十夜のような怪奇な雰囲気がある。後半のおとよのエピソードは、人間性回復や自立といったテーマが色濃くなっている。

黒澤作品はエンタメ作品としてとても良くできているためいつも安心して鑑賞できる。