ジェントルかっぱのブログ

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【映画】『黒猫・白猫』 エミール・クストリッツァ 1998年 Black Cat, White Cat

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ジプシーとユダヤ人はヨーロッパの歴史の中で、とても嫌われてきたことで有名な民族である。ユダヤ人は多数の実業家、政治家、学者、芸術家を輩出したり、第二次世界大戦を経て独立国家を持ったりして昔よりマシな待遇を受けているが、ジプシーはそんなことはなく、今でも盗みで生計をたてているチンピラ、ゴロツキ民族として害虫の様に扱われている。ヨーロッパに旅行に行ったらジプシーは警戒対象である。だからジプシーを取り扱った作品に出会うのはまれで、この映画はそのまれな作品の一つである。

クストリッツァ監督の大作『アンダーグラウンド』は最初から最後まで高テンションのまま走り抜ける作品で、観たあとにドッと疲れるものだった。この『黒猫・白猫』も同じで、音楽で例えれば第1楽章をアレグロ、第2楽章をアレグロ アッサイ、第3楽章をヴィヴァーチェ、第4楽章をプレストで演奏するようなものである。もしそんな曲を聴いたら終わったあとにぐったりしてしまうであろう。この映画はあらゆる登場人物が躁状態で暴れて、音楽も鳴りっぱなし、狂乱コントと呼んで良い映画であった。

ドリフのコントはテンポが早く、物が破壊されたり、登場人物がキチガイじみた行動をするものであったが、この映画は2時間以上ずっと、ブラックなドリフのコントをやっているようなものである。

この映画で描かれるジプシーは無法者でチンピラの人たちばかりなのだが、裏を返せばそれはたくましく、エネルギッシュだということである。この映画の登場人物はめげたり落ち込んだりすることがない。死体ですらおもちゃのように扱ってしまうのである。

ヒロイン役のイダが、気が強くてストレートでワイルドな女性で、ジプシーをテーマにした最も有名な作品『カルメン』のカルメンのようなイメージで、気の強いジプシー女のテンプレにとてもよく当てはまっていた。作品制作にあたってカルメンはそうとう意識されたのであろう。

全編、あまりにテンションが高く、ブラックすぎて日本人には笑いのツボになりにくいギャグが満載であったが、ガチョウで体を拭くシーンは本当におかしくて笑った。生きたガチョウをタオル替わりにして体を拭くというのは、それが仕方のないシチュエーションだったとは言え「そういう使い方があったか!」とかなりオリジナル性の高いギャグであった。

あとアマゾンで売られているDVDのパッケージは、「よりによって、そりゃないだろう」とあまりにもひどいシーンを使用したものである。日本の販売元は少し悪ノリしすぎではないだろうか、英語版DVDのパッケージはおしゃれに可愛く仕上がっているのに。

なお映画中に黒猫と白猫はちゃんと登場し、そしてとてもかわいい。