ジェントルかっぱのブログ

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【美術鑑賞】『クラーナハ展―500年後の誘惑』 国立西洋美術館

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前回訪れたときには咲き誇っていたイチョウの葉っぱを風が散らかしながら秋から冬に移行しつつある上野公園、世界文化遺産に登録が決まって絶好調の国立西洋美術館にクラナハの絵を観にいった。

世には、表向きは実名のFacebookで日々意識高い綺麗事やリア充な写真をアップしながら、裏では匿名のTwitterで毒舌や悪口や誹謗中傷や表向きにできない性癖や趣味をつぶやく人がいるそうだ。クラナハの絵も、表の絵と裏の絵があって、その両者ともがレベルが高く見ごたえがあるものである。

クラナハの表の作品で見応えがあるものは肖像画であって、神聖ローマ皇帝カール5世(カルロス1世)の肖像も、マルチン・ルターの肖像も、モデルのそのままの姿を足しもせず引きもせず表現した力強い作品である。クラナハ自身の自画像もそうなのだが、彼の描く肖像画は力強く威厳があって格好いい。

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私が特に好きなのは、ルターの肖像画である。これが見れただけでも、展覧会に行った価値はあった。

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クラナハの裏の作品は暗黒の背景に浮かび上がって冷酷な表情を浮かべる裸の女性である。クラナハの描く女性は冷酷である。これは女性の顔がことごとく目が細いことが影響している。細い目から投射される視線はナイフのように鑑賞者に飛んできて観るものを切り裂く。

だから裏作品で魅力的なのはユディトやサロメであって、彼女らは男の首を切り裂き、それを誇らしげに見せつけるのである。ユディトは達成感に満ち溢れたドヤ顔で、サロメは美味しい料理を作ってごちそうを見せびらかすときのような良い笑顔である。

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クラナハの裏絵のテーマであるエロスとタナトス、このテーマは神聖ローマ帝国が後世オーストリアとなったときのウィーン、19世紀末のウィーンに活躍した二人の人物、ジグムント・フロイトグスタフ・クリムトを直接に想起させる。

クリムトタナトスよりもエロスが、クラナハはエロスよりもタナトスが強調されている。二人の差は興味深く、クリムトの女性が性的誘惑を直接感じさせるものである一方、クラナハの女性は誘惑者というよりは魔女や鬼女的なオーラを放っている。

男は女に対して欲望と恐怖を持っている。クリムトは欲望を、クラナハは恐怖をそれぞれのパースペクティブから表現したものなのだろう。

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おまけ。カラヴァッジオのユディト。屠殺中である。

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